2008年2月3日日曜日

名作と地下水道

名作の映画、というのは、何度か見直して、また新たな発見がある。

3日、たまたま観ていたBSで「第3の男」を、途中から観た。
有名な観覧車の中でのハリーと主人公の小説家、ホリーとの出会いの場面だった。
その後、ハリーを警察に売ることで、ハリーの恋人アンナをウイーンから脱出させようとするが、駅頭でホリーの姿を見かけ、不審がって乗った列車から降り、ホリーを詰る場面。
そして、もっとも有名なラストシーン。並木道がシンメトリーな形を作る、墓地からの道。アンナが遠くから近づいてくる。待ち受けるホリーに眼をくれず、前を通り過ぎていく。「やってらんないね、この女」とは言わぬが、そんな声が聞こえて来そうな仕草で、ホリーが、タバコにつけた火を放り投げる……。

途中、ハリーが逮捕されるまでの、光と影のドラマが改めて印象的だった。
キャロウエー少佐らが待ち伏せする街角の喫茶店。廃墟の街に、風船売りがやってくる影が大きく、大きく写る。どんな大きな男がやってくるのか、と息を呑みながらみていると、それは肩に括っていた売り物の風船の束が作った影だった。

喫茶店の裏口から店に入り込んだハリーは、警察の部隊に追われ、地下水道へ。
地下水道は、巨大な下水道だ。いまでこそ、東京の地下にも、雨水を逃すための巨大な下水道が掘られているが、こんな下水道が100年も150年も前からできている欧州の大都市の基盤整備の底力には驚く。

地下水道といえば、アンジェイ・ワイダ監督の「抵抗三部作」の一つ、「地下水道」(1956) でも登場した。第二次大戦末期、ドイツ占領下で蜂起したレジスタンスの部隊の話。河の向こうまでやってきたロシア赤軍と示し合わせての蜂起の筈だったが、戦線は思わぬドイツ軍の戦力の建て直しと、ロシア軍の足踏み、停滞の前に、レジスタンスはナチス軍の前で行き場を失う。迷い込んで脱出ができない、というレジスタンスの置かれた状況を映しながら、まさに下水道が舞台になった。敗退して四散した部隊は、そのままでは全滅するのがみえている。本隊に合流するには、地上での軍行動で突破は困難、として地下水道にもぐった。発狂する文学青年や裏切り。やっとのことで出口をみつけるのだが、そこにはまばゆい陽光をみせながら鉄格子が無情にも……。

もう一つ思い出すのが、有名なパリの地下の下水道を舞台にしたジャンバルジャンの物語。「レ・ミゼラブル」。瀕死の重傷を負ったマリユスを背負って下水道を通り、バリケードから脱出する、というくだりがある――。

このパリの下水道には、わざわざパリを訪れたときに潜ってみた。
見られるのは、毎日ではなく、毎週であったか、隔週であったか、確か水曜日の午後の1-2時間。恐らくは、お役所仕事の一環であったのだろうが、結構、そんな酔狂な旅行者というのは、世界から集まるもので、私が行った30年も前のそのときも、時間には参観を待つ長い列ができていた。
その時の、印象は薄れてきているが、思ったほどには汚く臭くはないが、決して綺麗でも良い匂いがするわけでもなかった。地下水道には参観者用の歩道が整備されていた。当たり前かもしれないが、この施設も観光資源の一つであったのだから。

ウイーンにも出かけたが、このときには旅程も慌しく、地下水道を見学するまでの時間はなかったが、名作に出会うたびに、そんな経験を思い出したりするものだ。